【に、2%!?】なぜ鉄分の吸収率は低いのか - physica
ビタミンCの吸収率は最大約80〜90%、炭水化物や脂質にいたっては90%以上。私たちが日常で摂取する多くの栄養素は、体内で非常に高い効率で吸収されるよう作られています。
しかし、鉄分の吸収率はわずか10〜15%程度(非ヘム鉄に至っては2〜5%)。
他の栄養素と比べて、なぜ鉄分だけがこれほど極端に吸収率が低いのでしょうか?
単なる「体の効率の悪さ」と思われがちなこの現象の裏には、人類が生き抜くために培ってきた精巧な戦略が隠されています。
1. 鉄の毒性を防ぐため

人間には、体内に溜まりすぎた鉄分を積極的に排泄する仕組みが存在しません。
鉄は血液中で酸素を運ぶ不可欠な元素である一方、体内に過剰に存在すると強力な酸化ストレスを発生させ、肝臓や心臓などの細胞を傷つけてしまいます。
排泄経路がない以上、体内に取り込む段階でブロックするしかありません。肝臓から分泌される「ヘプシジン」というホルモンが小腸での吸収量を厳格に制限することで、鉄過剰による細胞破壊を防ぐ「安全装置」として機能しているのです。
2. 病原体との「奪い合い」に勝つため

もうひとつの大きな理由が、ウィルスや細菌などの感染症に対する防御メカニズムです。
病原体の多くは、増殖・生存のためにホスト(宿主)である人間の体内の鉄分を必要とします。
栄養免疫(Nutritional Immunity)
感染症の危険に晒された際、体はヘプシジンの分泌を高めて腸管からの鉄吸収をストップし、血中の鉄を細胞内に隠します。病原体に「餌」を与えないこの仕組みも、人体に備わったひとつの免疫システムです。
低鉄状態による感染抑制
あえて普段から血中の遊離鉄濃度を低く管理しておくことは、侵入した病原体が急激に増殖するのを防ぐ適応戦略であったと考えられています。
特に細菌や寄生虫では、鉄を利用して増殖するものが知られており、その中でも有名なものが「マラリア原虫」です。

実際に、海外では鉄欠乏の患者に鉄と葉酸を補給させてマラリアの感染率や重症化リスクが上昇してしまった事例や、マラリアを患った妊婦の貧血を意図的に放置させたところマラリア原虫の増殖が半減した事例などが報告されています。
3. 食品中の鉄の化学的性質のため

人間側の防衛策に加え、食材に含まれる鉄の構造そのものも吸収を難しくしています。
ヘム鉄(肉・魚など):タンパク質に包まれているため、他成分の阻害を受けにくく吸収率は約15〜25%。
非ヘム鉄(植物性食品など):水に溶けにくい三価鉄(Fe^{3+})として存在し、胃酸などで二価鉄(Fe^{2+})に還元されないと吸収されません。さらに、お茶のタンニンや穀物のフィチン酸と結合して不溶化しやすく、吸収率は約2〜5%にとどまります。
人体は鉄分を厳重に管理している

現代社会でも鉄欠乏症(貧血)に悩まされる人は多いですが、それでも他の栄養素のように「入ってきた分だけ吸収する」システムをとらなかったのは、鉄分が持つ毒性や感染症リスクといった危機から体を守るためでもあります。
鉄は「吸収が悪い」というより
「体にとって重要すぎるが故に厳重に管理されている」
と考えたほうが、本質に近いかもしれません。
この記事のライター
physica編集部
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