あったりなかったりする筋肉!?国によって存在率が異なる筋肉の不思議 - physica
あなたの体の中に、ある人にはあるけど、ない人にはない筋肉が存在することをご存じでしょうか?
それが、今回紹介する筋肉――「長掌筋(Palmaris longus)」です。
実はこの筋肉、世界の人々で存在率が大きく違うという、とてもユニークな特徴を持っています。
長掌筋ってどんな筋肉?
長掌筋は、前腕(肘から手首のあたり)にある細い筋肉で、手首を曲げる動作にわずかに関わっています。

腕を上に向けて、手のひらを上にした状態で手首を少し曲げると、真ん中にスッと浮き出る細いスジ――それが長掌筋(の腱)。
ただし…
じつはそのスジが出ない人もいるのです。
しかも、それは「鍛えていないから」ではなく、もともと筋肉自体が存在していない場合があるのです。

これは長掌筋がヒトが進化の過程で失いつつある筋肉のひとつのためと考えられていて、現にオランウータンなど木の間を移動して生活するサルの仲間には、今でも強靭な長掌筋が確認されてます。
世界で違う「長掌筋のある・なし率」
研究によると、この筋肉の欠損率は国や民族によって大きく異なります。
地域/手掌筋がない人の割合(欠損率)
- トルコ/63.9%
- エジプト/50.8%
- バーレーン/36.8%
- 中国/4.6%
- 韓国/4.1%
- ガーナ/3.1〜3.8%
- ジンバブエ/1.5%
(出典:Saeed Mら, Anatomy Research International, 2012, PMC4596262)
ちなみに、日本では約3〜5%の人が長掌筋を持っていないといわれています。
この差の理由ははっきりしていませんが、進化の過程で“徐々に”退化していったことに原因があるのではないかと考えられています。
実は「なくても大丈夫」
興味深いのは、長掌筋がなくても日常生活にはまったく支障がないという点。
実は手首を曲げる筋肉は、他にも2つ(橈側手根屈筋、尺側手根屈筋)あり、長掌筋がなくても手首の機能はそれらで十分まかなえているからです。

実際、外科手術では「不要だけど存在する」この長掌筋が腱移植(再建手術)用の予備パーツとしてよく利用されています。
自分の長掌筋をチェックしてみよう!
試しに、自分の手で確かめてみましょう。
①手のひらを上に向ける
②親指と小指の先をくっつける
③手首を少し内側に曲げる
これで手首の真ん中あたりに細いスジのようなものが浮き出てきたら、それが長掌筋の腱です。
見えない人も焦らないでOK。もともと無い人もいるし、なくても何も問題ないのです。
進化の証

長掌筋は、「使わなくなったけど、まだ残っている祖先からの遺産」。ちょっとした生体のタイムカプセル的存在です。
また、同じように退化しつつある筋肉には、耳を動かす「耳介筋」 尾骨周辺の「尾骨筋」 などもあります。
こうした“退化の途中”にある筋肉も、見方を変えれば“進化の証”なのかもしれませんね。
参考文献
Saeed Mら“Prevalence of the palmaris longus muscle and its variants in different populations: a review.” Anatomy Research International, 2012. PMCID: PMC4596262
Sebastin SJら, “The prevalence of absence of the palmaris longus—a study in a Chinese population.” J Hand Surg (Eur), 2005.
Reimann AFら, “The palmaris longus muscle and tendon. A study of 1600 extremities.” Anatomical Record, 1944.
この記事のライター
physica編集部
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