
スクワットの「つま先より前に膝を出してはいけない」は本当か? - physica
スクワットは筋力トレーニングの王道であり、下半身を効率的に鍛えるために欠かせないエクササイズです。
しかし、スクワットについて調べると、必ずと言っていいほど「つま先より前に膝を出してはいけない」という注意を目にします。
この「常識」とも言えるアドバイス、これは本当に正しいのでしょうか?今回は、このテーマについて科学的な知見を交えながら解説していきます。
なぜつま先より前に膝を出してはいけないのか?

これには、主に2つの理由が考えられます。
① 膝関節への負担
つま先より前に膝を出すと膝関節に過剰な剪断力(前後に引っ張る力)がかかり、怪我のリスクが高まると言われています。特に、膝の靭帯や半月板に負担がかかるという懸念が広まっています。
② 正しいフォームが取りにくい
膝そのもののリスクもそうですが、膝を前に出し過ぎることがフォーム全体に及ぼす影響も問題です。特に初心者では、これによって重心が不安定になったり、連鎖的に股関節の動きが制限されたりする傾向があります。
ただし「膝を出さない」ことにもリスクがある
ただし、膝を無理に後ろに留めようとすると、それはそれで股関節と腰に大きな負担がかかることも分かっています。
特にFryら(2003)の研究では、膝を前に出さないスクワットは膝関節へのトルクを約22%抑えられるものの、股関節と腰へのトルクはおよそ10倍以上増えると報告されています。

A:つま先より前に膝を出したスクワット
B:つま先より前に膝を出さないスクワット
Fry, A. C., Smith, J. C., & Schilling, B. K. (2003)
つまり、「膝を守って腰を壊す」という状況になりかねません。
最適な膝の位置

では、最適な膝の位置はどこなのかというと、これは関節の柔軟性や骨の長さ、足の大きさなどの個人差によって微妙に変わってきます。
つまり、人によって違います。
例えば、ハムストリングが硬い人(前屈して地面に指が届かない人)が膝を出さずにスクワットをすると、しゃがむほどに骨盤が後傾して重心が後ろに引っ張られます。それでも無理にしゃがもうとすると、重心を保つために上体が大きく前に倒れるかそのまま後に倒れるかの2択になります。この場合、適度に膝を前に出すことで背骨から骨盤が適切な角度で保たれ、スクワットの重心が安定します。
また、脚の長さに対して足のサイズが小さい人は、そもそもつま先より前に膝を出さずにしゃがむのは困難です。
自分に合ったフォームを見つける

確かに膝を前に出すことで膝関節への負担(剪断力)は増加しますが、これは必ずしも「危険なレベル」であるとは言えません。健康な膝を持つ人であれば、つま先より2〜3cm膝が出る程度の負担は問題なく耐えられることがほとんどです。
それを踏まえた上で、自分に合ったスクワットよフォーム見つける際のポイントを紹介します。
① 重心を安定させる
スクワットの基本は、常に足の裏全体で床を捉え、重心を安定させることです。つま先より前に膝を出しすぎて重心が不安定になるのであれば、それは修正すべきフォームですが、その逆もまた然りです。
② 膝とつま先の向きを揃える
膝の“位置”と同じくらい重要なのが、スクワット中、常に膝とつま先の“向き”を同じ方向に向けることです。これによって、膝関節へのねじれを防ぎ、怪我のリスクを大幅に減らすことができます。
③ 痛みを感じたらフォームを見直す
スクワット中に膝や腰に痛みを感じる場合は、フォームが身体に合っていない可能性があります。無理に続けるのではなく、一度フォームを見直し、専門家(トレーナーなど)に相談することをおすすめします。
まとめ
スクワットの「つま先より前に膝を出してはいけない」は、絶対的なルールではありません。多くの人にとって比較的安全かつ分かりやすい指標であることは確かですが、個人の柔軟性や骨格によって最適なフォームは異なります。
大切なのは、「常識」に囚われず、自分の身体と向き合うことです。鏡でフォームを確認したり、動画を撮影して分析したり、時にはトレーナーに指導を仰いだりしながら、怪我なく、最大限の効果を得られる自分にとっての最適なフォームを見つけ出してください。
安全に、そして楽しくスクワットを続けていきましょう!
出典: Fry, A. C., Smith, J. C., & Schilling, B. K. (2003). Effect of knee position on hip and knee joint moments during the barbell squat. Journal of strength and conditioning research, 17(4), 629-633.
この記事のライター

physica編集部
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